2016年1月4日月曜日

大村智さんの『人生に美を添えて』、美の世界に導かれる

大村智さんの本『人生に美を添えて』を読み終えました。
病院に絵を飾るヒーリングアートを始めたのは大村智さんが最初だったのですね。
◆私はナチスドイツのアウシュビッツ収容所から奇跡的に生還したオーストリアの医師ヴィクトール・フランクル博士の、「芸術は人々の魂を救い、生きるカを与えてくれる」という言葉に深く共鳴しました。そこで病院のエントランスホールはコンサートを開けるように音響効果を考え設計し、グランドピアノも用意しました。また、院内の壁には絵を飾れるようにしました。これからの病院は病気を診断し、治療するだけでなく、心を癒やす機能があるべきだと考えたのです。おかげで、メディカルセンターは「絵のある病院」として広く知られるようになりました。(p12-p13)
◆「人間病気になると余計なことをあれこれ考えてしまいがちです。ところが、絵があるとこの絵はいいなと、眺めているあいだは自分の病気を忘れられる。そういう癒し効果があるのです。(p13)
大村智さんは芸術全般にも通じておられるようです。
作品からいろいろと感じることができるようなのです。
■私の娘がまだ小さい頃、荻先生の絵を見ると、この先生の絵は怖いと言うのです。いわゆるフォルムではなくて、心というか、生きている実感、つまり精神的なものが伝わってくるのだと思います。子供の感性の鋭さには驚かされました。(p19)
■独特の厚みのある作りから感じられる健康的な温かさと安定感に加えて縄文と象嵌、そして鉄を基調とする洗練された色合いの妙、また花を生けると引き立つ壺、花がないときには和洋いずれの部屋にあっても品のよい雰囲気を醸し出す造形の美に、すっかりとりつかれました。(p35-36)
■そして何より私が感じたことは、彫刻においていちばん大事なところはどこかということです。それは指先です。その後イギリスのテート・ギャラリーでも見たロダンの「接吻」なども、指先の表現が実にいいですね。指先はものをいうわけです(笑)。(p49)
■ところが作品を見ていくうちに、ロダンとは全く違った造形美を感じたのです。中でも印象的だったのは「ぺートーベン」の一連の作品群。ベートーベンの表情から滲み出る、時には厳しく、時には苦悩に満ちた、あるいは安らぎさえ覚える面持ちや芸術家の偉大さをあますところなく表現している像に目を移していくと、息のつまる思いさえしました。
ロダンの作品を繊細な心の表現と見るならば、ブールデルの「弓をひくヘラクレス」には、精神の集中や魂の表現をみることができます。それは指先ではなくて、体全身に弓を引くカがこもっている。なるほど彫刻とはこういうものかと、感心しました。(p65)
■手鏡を用いながらコルセットに絵を描く姿には、絵画制作に憑りつかれた彼女(フリーダ・カーロ)の魂の凄さを見る思いがして、心が激しく揺れました。(p57)
岡田節子さん自身の絵は、自然と人間や動物などを、メルヘン調に表現し、韮崎の美術館に飾っておいても、子供が作品を見て非常に喜びます。もう一つは色使いがとてもいいのです。物語があって描くのではなくて、絵の中に物語が浮かんでくるような絵を描いているところが魅力だと思います。(p102)
岡本彌壽子さんの絵の前で、ぴたっと足が止まってしまったのです。「暁の祈り」というタイトルでした。矢を持っているから、何か心配事があって、神社にお参りに行った帰り道の一瞬の姿なのでしょう。細かく描写されているわけではないのです。でもその表情になんともいえない敬虔な祈りを感じました。また画面全体の雰囲気がとてもよく出ているのです。この作品を見て、ぐっと心の底から何かが湧いてきました。(p117)
大村さんは地元の人々への恩返しに美術館をつくることを決心しますが、先にまず温泉を掘ったのです。
そして自宅の敷地内に温泉施設「武田乃郷 白山温泉」をつくります。
それは地質学にも精通していたからのようです。
★地盤が強固で、掘削は1年以内の予定だったのに、2年以上もかかってしまったものの、幸いにして良い泉質の温泉(湧出量260リットル/46度)を掘り当てることができたのです。うちのあたりは標高400メートルぐらい。ところが、実際には1500メートル掘るわけですか
ら、海面よりもさらに1000メートル以上掘っている。そこから出てくるお湯なんです。私は地質学を勉強していますから、掘削についても計算していました。確信犯なのです(笑}。(p126)
そういうこともあって、その次に隣接して美術館を建設したのでした。
その2階からの眺めがこれまた格別にいいようなのです。
▲そしてこの美術館のもう一つの良さは、景色です。2階からの眺めが抜群にいいと言われています。実はそれは私が意識したことなんです。仕事で外国に繰り返し行っているうちに、学会中、エクスカーションといって、半日ぐらいバスで景色を眺.める機会があるのですが、なんだこれは、うちの韮崎のほうがずっときれいだ、という思いを度々して自覚していました。八ヶ岳連峰をはじめ、茅ヶ岳、奥秩父連山、そして富士山が一望できるところはそうはありません。しかも八ヶ岳の姿をシンメトリカルに裾野まで見えるなんていうところは、あの辺りだけなのです。美術館建設の際、2階の高さをどうするかという時、業者に櫓を組ませて、私自身が上り、このレベルに床を貼る設計をするようにと指示しました。目線の高さが抜群なわけです。なかなかここまで徹底して眺望を見極めてつくった美術館は少ないのではないかと自負しております。自然と芸術は人間をまともなものにすると言いますが、韮崎大村美術館にはその両方があるのです。美術館に来れば人間皆まともなものになるはずなんですがね〔笑)。(p122-123)
美に対する感覚が研ぎ澄まされているようです。
けいじは自然が織り成す景色に美を感じたり神社やお寺の境内で気を感じることはありましたが、絵画からはまだあまり感じることができませんでした。
この本に掲載されている美術作品と大村さんの説明文を読んでいて何か啓発され、少しは感じるものがありました。
そこで、新年の抱負には神社仏閣巡りに美術館も加わったしだいです。
有り難いことですわ。
ありがとうございます。

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